花を届ける前に、覚悟を積み重ねていた。片倉町・エフルールの「はじまりの話」【エフルール 連載第1話】

店舗を持たないお花屋さんエフルールの話

散歩をしていると、ふと花が目に入って、気持ちがやわらぐ瞬間があります。

特別な出来事ではないのに、少しだけ心が軽くなるような、そんな時間です。

片倉町には、そんな花のある時間を地域に届けている人がいます。

店舗を持たない花屋「エフルール」の野口さんです。

寄せ植えやフラワーアレンジメント、植栽管理、そして花に触れる講座など。

花や植物を通して地域の中に小さな彩りを届けている人ですが、話を聞いてみると、その始まりはとても静かで、そして覚悟のあるものでした。

「人に喜んでもらえることを仕事にしたい」

言葉にするとシンプルですが、その一言の中に、会社員時代のことも、独立への不安も、家族を背負う責任も、ぎゅっと詰まっていたように思います。

「自分で決める仕事」を選んだ理由

エフルールの野口さん
エフルール代表取締役 野口さん

エフルールを始める前は、15年間サラリーマンとして働いていたそうです。

長く勤める中で見えてきたのは、「自分で意思決定をしながら働きたい」という気持ちでした。

もちろん、会社員という働き方には安定があります。

でもその一方で、自分の考えで動き、自分の責任で形にしていく仕事をしたいという思いが少しずつ強くなっていったそうです。

そのとき、背中を押した存在の一つが、花屋をしている弟さんでした。

何度かお店を手伝う中で感じたのは、花には人を喜ばせる力があるということ。

言葉がなくても気持ちが届いたり、その場の空気がやわらいだり、受け取った人の表情がふっとほどけたりする。

そういう場面に触れるうちに、「これを仕事にしたい」という思いがはっきりしていったといいます。

エフルールの仕事は、ただ花を並べて売ることではありません。

寄せ植えをつくることも、アレンジメントを届けることも、植栽を整えることも、講座を開くことも、全部その先に“喜んでもらうこと”がある。

今の事業の形を見ていると、その原点がよくわかる気がします。

理念だけでは進めない時期があった

ただ、始まりはきれいごとだけではなかったそうです。

花や植物を使って人に喜んでもらいたい。

その気持ちは強かった。けれど同じくらい、不安も大きかったと話してくれました。

家族がいて、家のローンも払い始めたばかり。

「やってみたい」だけで進めるには、現実がしっかりそこにあったんですね。

仕事が軌道に乗るまでは、深夜の配送アルバイトができるように中型自動車免許を取得。

お酒もやめて、髪も自分で切るようにして、少しでも家計を黒字に保とうとしたそうです。

このあたりの話を聞くと、独立のスタートというより、生活を守るための総力戦だったんだろうなと思います。

華やかな開業ストーリーではなくて、「絶対に失敗できない」「何が何でも家族を養わなければいけない」という、かなり切実な気持ちの中にいた時期。

今のやわらかな花の仕事からはすぐには想像しにくいですが、その見えないところに、こういう時間がちゃんとあったのだと思います。

自転車で走り回っていた頃のこと

始めた頃を振り返ると、「がむしゃらでしたね」と一言。

毎日、自転車に乗って花のサービスのチラシを配り、営業にも回る。

自宅ガレージでの販売や、イベントでどんなことができるかもずっと考えていたそうです。

店舗を持たない花屋という形は、今でこそエフルールらしさの一つですが、最初からそれが順風満帆だったわけではないはずです。

自分から動いて、知ってもらって、少しずつ仕事につなげていく。そんな積み重ねが必要だったんだと思います。

それでも、お客様が1件、また1件と増えていく中で感じた嬉しさや安堵感は、今でも鮮明に覚えているそうです。

この“安堵感”という言葉が、とても印象に残りました。

嬉しい、ではなく、安堵。

それはたぶん、夢が形になった喜びというより、ようやく少し息がつけた、という感覚に近かったのかもしれません。

今につながっているのは、派手ではない姿勢

エフルールの仕事で大切にしていることを聞くと、「花や植物を使って人に喜んでいただき、地域に貢献すること」という言葉が返ってきました。

そしてもう一つ、心がけているのが、「ご縁を大切にしながら、謙虚さを忘れずに仕事をすること」

この言葉は、今の活動内容とも重なります。

個人のお宅だけではなく、高齢者施設や地域の場でも花に関わる仕事をしているのは、技術やセンスだけではなく、こうした姿勢があるからこそ声がかかるのだろうなと感じます。

花の仕事は、目に見える完成形だけで判断されがちですが、実際は人との関わりの中で成り立つ仕事でもあります。

相手がどんな場面で花を必要としているのか。

どんな気持ちで相談しているのか。

その背景をちゃんと受け取れる人だから、エフルールの花は地域の中で少しずつ広がってきたのかもしれません。

暮らす場所としても、この街を選んだ

エフルールが片倉町を拠点にしているのは、仕事の都合だけではありません。

ご自身も片倉町在住で、以前はこの街の賃貸アパートに住んでいたそうです。

その中で、片倉町の住みやすさに魅力を感じ、家を購入。

暮らしの場所としても、この地域を選んだということになります。

こういう話を聞くと、エフルールの活動が“地域向け”というより、もっと自然に“地域の中にある”ものなのだと感じます。

ここで暮らして、ここで働いて、ここで人とつながっていく。

その延長線上に、今の仕事があるんですね。

花をきっかけに、誰かの気持ちが少し動く

花は、毎日なくても生きていけるものかもしれません。

でも、あると少し気持ちが変わるものでもあります。

部屋の空気がやわらぐ。季節に気づく。誰かに渡したくなる。

そんな小さな変化を生む力があるからこそ、この仕事は続いてきたのだと思います。

そしてエフルールは、その“花の力”を信じて、地道に届けてきた人なんだろうなと思いました。

もし花や植物のこと、お庭のこと、ちょっと気になることがある人は、こういう存在を思い出してみてもいいのかもしれません。

大げさではなく、暮らしのすぐそばで相談できる人が地域にいるのは、やっぱり心強いことです。

今回の話は、エフルールという活動の“はじまり”について。

でも、その背景には、この街で暮らし、この街を好きになっていった時間もありそうです。

次回予告

次回は、「この街との出会い」。

片倉町という場所と、どんなふうに関係を育ててきたのかを、もう少したどってみたいと思います。

et Fleur

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もっと人にフォーカス!ローカル連載

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このコーナーでは、神大寺・片倉エリアでがんばる人たちやお店のストーリー、地域の取り組み、暮らしのヒントなどを、シリーズ形式でお届けしていきます。

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