『仲間が見えた。』その一瞬を忘れない。横浜かもめSCで育つ、サッカーのその先【かもめSC連載 第5話】

前回の記事では、横浜かもめSCのコーチたちが日々感じている「指導の難しさ」について紹介しました。
子ども一人ひとりに合わせて言葉を選び、「どうしたら伝わるだろう」と考え続ける毎日。
そんな積み重ねの先で、子どもたちはどんなふうに変わっていくのでしょうか。
第5回のテーマは、「成長のエピソード」。
今回は山本コーチへのインタビューをもとに、子どもたちが見せてくれた変化や、その瞬間に感じた思いをお届けします。
「仲間が見えた。」その一瞬が忘れられない

「印象に残っている成長ですか?」
そう尋ねると、返ってきたのは意外にも「すごいシュート」や「優勝した試合」の話ではありませんでした。
「自分だけの世界から、仲間とつながる世界へ飛び込んだ瞬間ですね。」
小学校低学年の子どもたちは、ボールを追いかけることに夢中です。
一つのボールにみんなが集まる、いわゆる「だんごサッカー」。
それも、この年代らしい自然な姿だといいます。
そんなある日の試合。
いつもならそのままドリブルで突っ込んでいた選手が、ふと顔を上げました。
隣では、仲間がフリーになっています。
「パス!」
その声に反応するようにボールを預けると、プレーはきれいにつながり、そのままゴールが決まりました。
もちろん、得点もうれしかったそうです。
でも、本当に心が動いたのは、その前の一瞬でした。
仲間を見つけたこと。
仲間を信じてボールを預けたこと。
「あ、この子の世界が広がった。」
そんな感覚があり、思わず鳥肌が立ったと振り返ります。
サッカーは一人ではできません。
だからこそ、技術だけではない成長を感じる瞬間は、何より心に残るのかもしれません。
「できた!」は、自信の始まり

練習には、もちろん狙いがあります。
もちろん、最初から何でもできる子ばかりではありません。
ボールタッチの練習では、見よう見まねで挑戦してみるものの、途中でやめてしまう子もいます。
そんなとき、山本コーチが大切にしているのは、「教えること」よりも「伝わること」です。
前回、石崎コーチも話してくれたように、同じ言葉でも、子どもによって受け取り方は違います。
だから、一人ひとりに合わせて言葉を選び直します。
少し表現を変えるだけで、「そういうことか」と表情が変わる子もいるそうです。
そして、一度理解できると、子どもたちは驚くほど前向きになります。
「もう一回やってみる。」
「次はできそう。」
そんなふうに、自分から挑戦を始める姿を何度も見てきました。
それでも、すぐにうまくいかないこともあります。
ある選手は、練習では思うようにできませんでした。
ところが翌週になると、できなかったプレーが自然にできるようになっていたそうです。
話を聞くと、自分で公園に行って練習していたのだとか。
その姿を見ていると、育っているのは技術だけではないと感じます。
悔しくてもあきらめないこと。
「できるようになりたい」と思い続けること。
そんな心の強さも、少しずつ育っているのです。
サッカー以外の場所でも、成長は続いている
子どもたちの変化は、グラウンドの中だけではありません。
ある日、保護者からこんな話を聞いたそうです。
「最近、学校へ行く準備を、自分からやるようになったんです。」
横浜かもめSCでは、低学年のうちから、自分の荷物を整理したり、水筒を準備したりと、「自分でできることは自分でやる」ことを大切にしています。
最初は時間がかかってもいい。
少しずつ、自分で考え、自分で動く経験を積み重ねていく。
その積み重ねが、サッカー以外の場面にも少しずつ表れてくるのだそうです。
家での生活態度が変わったり、自分の考えを以前よりもはっきり伝えられるようになったり。
そんな話を聞くたびに、「サッカーを教えている」というより、「子どもの成長を一緒に見守らせてもらっている」と感じると言います。
保護者から届く何気ない一言が、日々の指導が子どもたちの暮らしにつながっていることを教えてくれる、大切な瞬間でもあるのでしょう。
「もっと上手くなりたい」が、何よりうれしい

では、指導を続ける中で、一番うれしい瞬間はどんなときなのでしょうか。
答えは、とてもシンプルでした。
子どもたちが「サッカーが好き!」という気持ちを、自分の行動で見せてくれたときです。
練習が終わると、
「コーチ、今のプレーどうだった?」
「もっと上手くなるにはどうしたらいい?」
そんなふうに、自分から目を輝かせて聞きに来る子がいます。
誰かに言われたからではなく、自分でもっと成長したいと思っている。
その姿を見るたびに、うれしくなるそうです。
以前はボールを触ることさえ怖がっていた子が、休日には公園で自主練習をしている。
そんな話を保護者から聞くこともあると言います。
「楽しい」という気持ちが、「もっとやってみたい」という力に変わる。
その変化こそが、指導を続ける原動力になっているのかもしれません。
そして、もう一つ楽しみにしている日があります。
毎年1月3日に開かれる「初蹴り大会」です。
卒団した選手たちが、当たり前のようにグラウンドへ戻ってきてくれる。
久しぶりに顔を合わせ、成長した姿を見せてくれる時間は、クラブにとって特別なひとときです。
卒団しても帰ってきたくなる場所。
その関係が続いていること自体が、このクラブのあたたかさを物語っているように感じます。
子どもの成長は、結果よりも、その過程にある

今回話を聞いていて印象に残ったのは、「何ができるようになったか」よりも、「どう変わっていったか」を大切に見つめていることでした。
仲間を見るようになったこと。
できないことに、自分から挑戦するようになったこと。
自分のことを自分でやろうとするようになったこと。
「もっと上手くなりたい」と、自分の言葉で伝えられるようになったこと。
その一つひとつは、小さな変化かもしれません。
けれど、その小さな積み重ねが、子どもたちのこれからを支える大きな力になっていくのでしょう。
横浜かもめSCが目指しているのは、サッカーが上手な子を育てることだけではありません。
仲間を思いやり、自分で考え、自分から一歩を踏み出せる人へと成長していくこと。
今回の話からは、そんな子どもたちの未来を信じ、長い目で寄り添うクラブの姿勢が伝わってきました。
次回につづく
子どもたちの成長を見守る日々の中で、コーチたちはどんな瞬間にやりがいを感じ、どんなことに魅力を感じているのでしょうか。
次回は、「この活動の好きなところ」をテーマに、スタッフそれぞれの言葉から、横浜かもめSCという場所の魅力をさらに深掘りしていきます。
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